Wallpaper fermionとは、ある種のトポロジカル結晶絶縁体が持つ表面状態の一種で、
時間反転対称性とノンシンモルフィックな結晶対称性によって保護された表面状態です[1]。
トポロジカル絶縁体として最もポピュラーなものは時間反転によって保護されているものですが、
このときの表面状態はDirac fermionと呼ばれるものになります。
Dirac fermionとはDirac方程式に従うspin 1/2の粒子の事を言い、トポロジカル絶縁体表面における
準粒子のスペクトルがDirac方程式の解として得られるように運動量空間で線形となっていることから命名されています。
また、トポロジカル絶縁体表面のDirac fermionは磁場によって質量を獲得するように振る舞います。
したがって、トポロジカル絶縁体と強磁性体とを接合した界面では、質量を持つDirac fermionが存在すると言えます。
では、反強磁性体との接合界面の場合はどうでしょうか?
この場合、低エネルギーの準粒子励起を記述する有効理論では上手く取り扱うことができません。
では、wallpaper fermionの場合を考えます。
Wallpaper fermionはノンシンモルフィックな結晶対称性によって保護されることから、
低エネルギーの有効理論に副格子の自由度が保証されます。
加えて、時間反転対称性によるクラマース対も存在するため、スピンの自由度も有効理論に含まれます。
実際、表面状態は4重縮退した状態となっていることが知られています。
以上の特性により、wallpaper fermionの場合には、低エネルギー有効理論によって
強磁性接合、反強磁性接合の両方を考慮することができるという利点があります。
我々の研究[2]では、まず、具体的な結晶形を仮定してwallpaper fermionの有効理論を導出し、
強磁性、反強磁性磁化の両方によって質量を獲得することを示しました。
また、ここで導出した有効理論は結晶対称性のみを仮定したものと等価であることから、
wallpaper fermionの有効模型として十分一般的であると結論づけられます。
この有効模型を用いて我々は、ホール伝導度、スピンホール伝導度の計算を行いました。
ホール伝導度の計算により、Fermi準位以下の状態が寄与する現象においては、従来のような
運動量の線形項のみを含む有効理論では不十分である可能性を示唆する結果を得ました。
また、スピンホール伝導度に関しては、強磁性接合の場合と反強磁性接合の場合とで、
強結合の極限において定性的に異なる振る舞いを見出しました。
参考文献