物性物理学
物性物理学は,物質の示す多彩な性質を,物理学の法則,とくに量子力学と統計力学,に基づいて解明する分野です.水と氷の違いは?磁石の起源は?超伝導とは?自然界の呈示する現象を追究することにより,先人物理学者は,たとえば「対称性の破れ」という,多粒子系に特有の概念を獲得するに至りました.これは,物の理(ことわり)を追求するという意味で,物性物理学の純学問的な側面といえます.
物性物理学は,また,科学技術の進歩や私たちの日常生活の向上とも密接に関係していて,学問的に得られた知識をもとに,物質の機能を引き出し新技術へ橋渡しする側面をもっています.半導体の研究から生まれたトランジスタはその典型的な例ですが,物理学の観点からは,人間の創意工夫で新しい物理現象を創造するものといえるでしょう.物性物理学のこれら2つの側面は,必ずしも明確に区別できるとは限りませんが,量子輸送理論研究室では,後者の側面に重心をおいた理論研究を行っています.前者が物性物理学の「本流」であるとすると,後者は物性物理学に「新しい流れ」をもたらすものといえるかもしれません.
量子輸送現象
金属と半導体,絶縁体の違いは,まず量子力学に基づいて理解されます.半導体の理解はトランジスタを生み,それは,集積回路に組み込まれてパソコンなど現代の私たちの生活に欠かせないものとなっています.一方,半導体技術の進展とともに物性物理学の対象も広がり,たとえばアンダーソン局在や量子ホール効果といった現象が見出されました.これらは,ともに電気伝導に関する現象,すなわち輸送現象,ですが,その理解には電子波の干渉など量子力学が本質的に重要であるため,量子輸送現象と呼ばれています.近年,半導体分野で発達した微細加工技術を磁性体に応用することにより,磁性についても研究対象が広がり,スピントロニクスという分野が誕生しました.また,量子ホール効果を示す状態は,磁石や超伝導のような「対称性の破れ」ではなく「トポロジー」で特徴づけられることが認識され,トポロジカル絶縁体など,新しいクラスの物質群が存在することが浮かび上がってきました.